ということで江戸川乱歩

文芸別冊の夢ムック「江戸川乱歩」というのを借りてきて、ソレを読みつつ、久しぶりに少年時代のあのころを思い出し「少年探偵団シリーズ」を二冊借りて読み返してみた。
「魔法博士」
魔法を使う博士だそうです。もちろん正体は二十面相。子供の頃読んでいて、ストーリーはほとんどおぼえていたのだが、大人になって読み返すとツッコミどころ満載。いちいちつっこむのは大人げないのでヤメておくが、あれだけの部下を雇って、少年探偵団の子供たちを驚かすためだけに巨大な胎内巡りアトラクションを作るなど、並大抵の資本力ではなかろうに。

魔法博士 (少年探偵・江戸川乱歩)

魔法博士 (少年探偵・江戸川乱歩)

「黄金の怪獣」
いやもうなにも言うまい。
コレはSFです。今読んでみると、ああ、コレは乱歩の「猟奇の果」の子供版なのだなと...もちろん大人版には黄金の怪獣(つまりトラに変装した二十面相、ソレを変装というか?むしろ着ぐるみ)は出てきませんが...人体改造術(整形手術)で全く同じ人間を作り出すことができる謎の凄腕医師は、ブラックジャックというよりも、限りなくエドガー・ラース・バローズに出てくるマッドサイエンティスト的。あまりにSF的で、少年探偵ものの中でもケレン身にあふれた一作。そして遺作。
黄金の怪獣 (少年探偵・江戸川乱歩)

黄金の怪獣 (少年探偵・江戸川乱歩)

江戸川乱歩 誰もが憧れた少年探偵団」
舞城王太郎の「土か煙か食べ物」の中ではぼろくそ嫌われていた少年探偵団と明智小五郎。事件解決後に「名探偵バンザーイ」と脳天気に団員たちが勝ちどきを上げるのが気に入らないらしい。
そんな所も含めて少年たちを愛してあげててください。
本書を読むと「少年探偵団」=「少年愛の象徴」てな感じで怪しく紹介されております。昔から乱歩と少年愛ってよくいわれていたり、かの有名な少年愛作家(?)稲垣足穂戸並び称されて、知っている人は知っているというか、周知のコトだ。
もっとも自分も少年探偵団シリーズに夢中になっていた頃などは、そんなコトは全く知らなかった。当たり前だけど。よく考えてみれば、シリーズのはじめこそ、二十面相は宝石や美術品など「換金可能」なモノを専門に盗む泥棒だったのに、シリーズ後半はどう考えても巨額な費用を投じて少年探偵団の諸君をただ驚かすためだけに人生を賭けているとしか思えない。なんか好きな女の子に気をひきたくて意地悪をする小学生みたいだ。
翻って名探偵明智小五郎だが、コレはもう少年探偵団なんかを主宰する(発足当初は少年たちの任意団体だったのだが)くらいだから少年愛云々どころではなくて、そのまんま、ソレだ。この辺についても本書は実におもしろい考察がなされていたので紹介する。
...明智自身は妻帯者で(妻は「魔術師」事件の魔術師の娘)あったはずなのだが、いつの間にか明智の探偵事務所から妻の姿がなくなってしまい、小林少年と同居するようになりました...
ほら限りなく怪しいでしょ?さらに考察は続く、
...ちょうどソレと時を同じくするように二十面相が結婚したのであった。...
え、アノ怪人が結婚!!??ソレは自分も知らなかった。
...ちょうど「明智小林同居」と時期が重なるので、明智の性癖にあきれた妻は、コトもあろうに明智の敵である二十面相の元へ走った「趣向返し」であった....
スゴイ、おもしろい説だ。
他にも「二十面相は四人いた」という綾辻行人説。「二十面相は二人だ。そして明智も二人いた。それぞれ初代の名前を二代目が継いだのだ」という北村想説。北村想は「二十面相、伝」という自作の中でこの説を小説化している。ココまでくるとシャーロキアンがホームズの著作からホームズの人物像に迫ろうと研究しているのと全く同じ「知的お遊び」ってな感じがしてナイスだ。
久しぶりに少年探偵団を読み直してみると、やはりソコは怪人二十面相と名探偵明智小五郎の「知恵くらべ」というより「少年愛くらべ」(?!!)といった感じがプンプン臭ってくる。高額な仕掛けを作って少年たちを驚かすだけで「ふへへへへ」と笑う二十面相もヘンタイ的だが、妙にイタズラっ子ぽくて素敵だ。どちらかというと二十面相こそが江戸川乱歩の作中における架空の姿である。すると明智小五郎は誰を模したものかというと、コレはもう稲垣足穂でしょう!!完全に理論武装して、愛する少年たちから、愛だけではなく尊敬も勝ち取ろうとするイヤラシさ。そこまで論理的に弁証しないと少年がスキだ言えないのかという息苦しさを感じるのであった。
どちらにしろ、どっちもどっち。同じ穴のムジナというか...生前は江戸川乱歩稲垣足穂って親交があったのだろうか?なんか気になるので今後の研究課題としよう。
てか、そんな本ばかり借りていたら「この人はそういう趣味かしら」って司書さんたちに誤解されないかしら(←おいおい)