「ポーツマスの旗」吉村昭

今回の広島出張のトリをしめたのがこの本。やはり吉村大先生にご登場してもらわなければならない。なにせ広島は遠い。新潟からだと片道7時間はかかってしまう。帰りの新幹線の中だけで読破。
日露戦争講和条約締結のためアメリカのポーツマスへとむかった外相・小村寿太郎。その使命は過酷であり、どう転んでも帰国後、一人悪名を負って生きなければならない運命が待ち受けている。それでも、現在の日本の国力ではこれ以上ロシアとの戦争を続けていくコトはできない。バルチック艦隊を破った日本海海戦の勝利をもって、日露戦争勝利のまま、有利に条約締結したいところなのだが...
小村寿太郎ポーツマス条約といえば中学生の歴史にも出てきた。当時の歴史の先生からは「帰国後の小村寿太郎はあまりに少ないロシアからの戦後補償の内容に、出迎えた人々から石を投げられた」と教わった覚えがあるのだが。
石どころではない。そのとき国内では補償の内容に不満を持った人々が大暴動を起こしていた。
幸か不幸か、肺尖カタルを患ってしまった小村は、他の同行者を先に日本へ帰国させ、一人アメリカで治療に励んでいたのだ。まさにそのとき、小村の自宅では暴徒が退去して押し寄せ、火のついた米俵を投げ込むなど乱暴狼藉の限りを尽くしていた。まるでマンガ版デビルマンのラストのようだ。かろうじて駆けつけた軍隊に小村の家族は助けられたものの、それ以前より不安定の精神状態だった妻は、完全に発狂。それまでもほとんど家に寄りつかなかった小村であったがコレを機に完全に別居(離婚はしていない模様)となってしまった。
開国から幕末、そして清国やロシアなどを破り、一躍世界の列強に名を連ねようとしていた日本。やがて太平洋戦争の泥沼になだれ込んでいく日本の軍国主義がこの時から萌芽したのであった。
歴史はおもしろい。というか、歴史はおもしろいと思わせてくれる吉村昭がおもしろい。

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)