「間宮林蔵」吉村昭

相変わらず吉村昭ばかり読んでいる。コレは浅草出張中に読んだモノだが、よく考えたら感想書くのを忘れていた。しょうがないなあ...感想を書いて初めて読了と言えるのに。遠足は家に帰るまでが遠足です。
前半と後半とでかなり話の雰囲気が変わってくる本書。自分的には前半が好きだ。ほとんど歴史小説と言うよりはSF小説じみている。日本人未踏の地、樺太探索をする間宮は、まるでソコがこの世の場所ではない気がしたことであろう。この雰囲気は、かの小栗虫太郎の「人外魔境」か、はたまたバローズの「火星シリーズ」を奇しくもほうふつさせる異世界。この辺がかなり自分の心の琴線に響いてしまった。
さて後半。樺太探索の功績を称えられ、役職に就いた間宮だが、今度は間諜(要はスパイ)として諸国を回ることとなる。やはりソコは幕府の犬っていうことで、ハッキリ言えば嫌われ者だ。そんな中でも職務に忠実な彼は、やがて世間を震撼させる「シーボルト事件」にかかわっていくのであるが...この辺が「ふぉん・しいほるとの娘」とリンクする部分である。世間一般の常識のみならず、シーボルトからも「ヤツが幕府に密告したからばれてしまったんだ」と言わんばかり誤解される。真実は停泊中のオランダ船に台風が直撃して大破。その際に積んであった荷物が流出。すると日本地図をはじめとする、海外持ち出しご禁制の品物がザックザク出てきたからさあ大変というモノだ。この辺の描写はむしろ「ふぉん・しいほるとの娘」の方が詳しい。本書では間宮が「御法度通りに報告したのに、犬とさげすまれるのは不本意はなはだしい」といったところであった。
この様に人生の前半(本書でも前半)では自らに命の危険も顧みずの大冒険で輝かし業績を残した間宮であったが、晩年は梅毒を発症してしまい、ほとんど悲惨な人生を過ごすハメになる。
人生なんて一瞬の成功体験などははかなく、下駄を履くまで人生評価などはできないのであろうと、無常観で一杯になる。
ところが、意外なところでシーボルト。間宮のせいで日本を永久追放(後にゆるされ日本へ再渡航するが)されたと心底思いこんでいるくせに、実績としての間宮海峡発見の功績は、それはそれで素晴らしいと評価をあたえ、ちゃんと世界地図に間宮の名前を乗せたところがエライ。まさに侠気。そんなわけで、初めて歴史地図に名前の載った間宮林蔵であり、その功績は彼の死後も長く称えられることになったのだから、人生わからないものだ。生きているうちはあまり恵まれなかったであろうが、世界的評価を得られたと言うことでよしとしましょう。
でも死んでから有名になってもなあ、ゴッホじゃあるまいし。

間宮林蔵 (講談社文庫)

間宮林蔵 (講談社文庫)