「孤島の鬼」江戸川乱歩

実はコレ、読むのは二回目なのだ。初めて読んだのは中学三年生の時。そのときは子供向け少年探偵団シリーズを読破してしまっていて、他に何か江戸川乱歩ものがないのかと書店を探し回っていた時だった。文庫本のコーナーを見渡せば、おお、まだこんなにも見たこともないタイトルの江戸川乱歩があるではないか!!早速なけなしの小遣いはたいて買って読んでみたところ...亜空間にひきずりこまれる〜〜〜〜
いや、そのときはまだ中学生だったので、そんな大人世界の猟奇で好事な世界のコトはサッパリわからなかった。
こうして人生も折り返し地点を過ぎてしまった自分として「孤島の鬼」を読み返してみると、当たり前だが、中学生ではわからなかったとんでもない世界が展開されていたことに気がつく。中学生当時は純粋に推理小説として読んでいたので、主人公の恋人を殺した意外な犯人像と密室トリックにビックリした覚えがある。今考えてみると、孤島の鬼のストーリーはソコしか覚えていなかった。あの意外な犯人ではジュブナイル版に書き下すワケにはいかなかったであろう。ところがそんな犯人が捕まって、話がほとんど終わってしまった、というのがまだ本書の半分くらいなのだ。これから本格的な悪夢になって行くのだが...この悪夢具合の記憶が中学生時代の記憶からぽっかり抜け落ちていた。そうか、あのころは純粋だったから(ほんと純粋だったんだよ〜)殺人トリックがわかった時点で興味をなくしてしまったのだな...
主な登場人物が四人いる、まずノンケの主人公(ノンケとわざわざ断るところがミソ)そして探偵役の同性愛趣向者の友人(きたきた〜)第二探偵役で多分同性愛者で多分ペドな友人(作中ではハッキリ書いてないが...いやな友人だ)そして主人公の婚約者の女性(はい、ココ重要)そしてまずこの主人公の婚約者が密室内で無惨に殺されるのだ。当然真っ先に疑われるのが主人への同性愛趣向をいだいている友人だ。主人公が自分をかえりみてくれなくて、あまつさえ女性と婚約するだなんて!!嫉妬に狂ってこの婚約者を殺したのではないかと疑うのだ。そこで第二探偵役の多分同性愛者で多分ペドな友人(ホントいやな説明文だ)が出てきて、何と事件の真相を看破してしまう、しかしソレを主人公に伝える前に殺人鬼に公衆の面前でむごたらしく殺されてしまう。結局の主人公から嫌疑を掛けられた同性愛趣向者の友人が急遽探偵役となり、殺人事件の真相を探偵するのだが、ココまではまだ序章。その殺人の裏にはもっと恐ろしい事実が隠されていたのだ。
物語のそこかしこに、この同性愛趣向者の友人と主人公は「こいつら絶対できてるって」というような描写が多々あり、コレは何としたものか。何といってもこの物語が書かれてのは昭和四年。これから日本は軍国主義の泥沼に入らんとしていた時代だ。そしてこれが乱歩初期の通俗物ということで、それなりに読みやすくなってはいるが...発表当時や単行本化されたときなどはさぞかし伏せ字だらけだったであろう。結構モーホーカップルの微妙な心理を表現していて、特にノンケでありながら、どう考えても探偵役の同性愛趣向者の友人を、惚れた弱みにつけ込んで上手に使っている主人公には、ちょっとおまえずるいんじゃないかと思える。前半の不可思議なトリックなどどうでもよくなるような後半のむちゃくちゃな展開を刮目して読むべし。
よく石井輝男監督「恐怖奇形人間」の原作が「パノラマ島奇譚」といわれるが、あらすじを読んだところではこっちの方が原作のウエート高いんじゃないか?まあ、こちらの方は名探偵明智小五郎は出てこないが。逆にパノラマ島の方は、映画同様、物語に全く関係なく突然明智探偵が登場してきて、解決しなくてもいいものを強引に解決してしまって、腹の立つこと甚だしい。パノラマ島奇譚は明智登場前までは素晴らしい幻想文学だったのに、台無しだ。
孤島の鬼の自注自解には

この小説に同性愛が取り上げてあるのは、そのころ、岩田準一君という友人と、熱心に同性愛の文献あさりをやっていたので、ついそれが小説に投影したのであろう。
うそこけ。どう考えても乱歩爺さんカミングアウトだよな。岩田準一君という友人が怪しい。
ところで未だに図書館には必ず「少年探偵団シリーズ」がおいてあるが、アレは腐れオヤジ乱歩が、まだ将来ある少年達を自らが耽美とする世界へ引きずり込まんとする悪魔の道標ではないか?いや、自分は大丈夫。多分大丈夫。間違いなく大丈夫だってば!!
今回読んだのは創元推理文庫でして、これが初出の挿し絵を採録していてなかなかグッドです。巻末の解説を中井英夫が書いていて、これまた偶然にも今読んでいる本が中井英夫の「虚無への供物」だったりするのだから(意図してじゃなくてホント偶然。いまこうしてブログ書いていて初めて気がついた)探偵小説というのは探偵小説を呼ぶのであろうか。「虚無への供物」に関しては「日本三大奇書」の一つとして「ドグラマグラ」(夢野久作)「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)と並び称されるものなので、読了したらアップします。
孤島の鬼 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

孤島の鬼 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

てか、よくこんな本を中学三年生の時の読んだよな自分(←おいおい)