「夜来たる」アイザック・アシモフ、ロバート・シルヴァーバーグ

太陽が六つも空にあり、一日中夜が来ることのない惑星。そこに約2000年に一度の周期で夜がやってくる。モチロン住民達は夜という概念すら持っていない。まして星の存在も知らない。そんな惑星に夜が来たら、どうなる?
コレもアシモフの昔の名作短編をシルヴァーバーグが長編化した、人のふんどしで相撲を取った一冊。とはいえかなりおもしろかったので(ラストの人類救済策はそれでいいのか?ってなかんそうをもってしまっが)オリジナルの短編版も図書館から借りて読んでみた。
なかなか粋な話のふくらませ方をしているよ、シルヴァーバーグ。技あり!!
長編は大別して三章から成り立っており、そのうちの第二章、いよいよ夜がやってきて、謎の存在であった星の正体が明かされるというところ。実は短編版はここの部分だけなのだ。この短編版に前後して章を加え、本作品は構成されている。
第一章では、人気のアトラクションで閉所恐怖症から不可逆的な精神障害に陥る患者の描写からはじまる。このアトラクションとは「闇のトンネル」何のことはない光のないトンネルの中を移動式の車に乗って通り抜けるだけ。ところが夜の概念のない人々には暗闇に対する耐久性がなく、このアトラクションのほんの15分間ほどの暗闇にも耐えられないのだ。
さあ、こんな人類がすむ惑星に夜が来たら、一体どうなるのであろうか?
同時期に、遺跡発掘調査にやってきた女性博士が、偶然からとてつもない遺跡を発掘した。何とその遺跡は炭素同位体の調査から、過去約2000年周期で九度に渡り焼失を繰り返してきたのだと推定された。
そしてまたまた時を同じくして、天文学者が、天体の動きに万有引力の法則とは矛盾する動きを発見した。原因は肉眼では見えない惑星が、長大な楕円軌道の末、いずれ戻ってくるというのだ。そして六個のうち五個の太陽が沈んで、一つだけが天空に残ったまさにその時に、楕円軌道の末、戻ってきた惑星が日食するかたちで残ったひとつの太陽を隠してしまうのだ。その周期が約2000年。
古代遺跡の焼失した周期をピタリ重なるわけだ。
そこに謎のカルト宗教集団が絡んでくる。その教団の教義によると、人類は過去から現在に至るまで、やはり2000年周期で破滅を繰り返してきており、その破滅を回避するためには、入信するしかないとのこと。
これら夜の到来を予言する科学者とカルト教団は反目しているのだが、しかし同じように夜の到来を予言している。そこに、それらをふざけた戯言として受け止める(この世界では普通)人々もいるわけで、夜の到来に向かって混乱してくる世界。果たして夜は預言通り到来するのだろうか?ココまでが第一章。
第二章はアシモフの短編版をふくらませたモノであり。第三章は「夜」到来後のパニックを生き残った人類の苦闘と、そこからの再生への足がかりを模索する。そして回答としてはいかがとおもうが、それもやむなしのエンディングである。
もし夜のない世界に夜がやってきたら、ソコの世界の住人はどういった反応を示すのだろうかという、思考実験あふれたテーマを文学的にもおもしろく表現してしまったのだ。
いや〜「アンドリュー」がほとんどオリジナル短編と区別がつかないのとは違い、こちらはモノスゴクおもしろい作品に仕上がっている。シルヴァーバーグもやりますねえ〜脱帽ってな感じだ。たまにはこんな王道SFを読んでみるのもいいものだねえ〜
ちなみに短編集「夜来たる」に収録されていた他の短編も読んでみたけど...ヤッパ表題作がいちばんおもしろいねえ。他の作品は何だかぱっとしないものだった。これよりアシモフの科学エッセイシリーズの方がおもしろいよ。
アシモフの他の作品も久しぶりに読みたくなってしまった。「鋼鉄都市」「神々自身」とファウンデーションシリーズの「ファウンデーションの彼方へ」までは読んだはずなのだが、内容をすっかり忘れてしまっているぞ、自分。

夜来たる 長編版 (創元SF文庫)

夜来たる 長編版 (創元SF文庫)

ちなみに短編版も
夜来たる (ハヤカワ文庫SF)

夜来たる (ハヤカワ文庫SF)