「夜愁」サラ・ウォーターズ
「半身」「荊の城」に続くウォーターズの日本語訳三作目(まだ翻訳されていない処女作ってのがあるらしいが)全二作では、何となく何となく百合っぽいのをミステリというオブラートに包み、大傑作へと昇華した作者だが、本作はズバリ
レスビアン小説
である。ミステリではない。てっきりミステリだと思いこんで読み出したワケだが、冒頭で主人公の女性が助手をして、なお心酔しているらしい怪しい代替医療医師が登場してきて、いかにもミステリ体裁していたのだが、その医師が出てきたのはその最初だけ。
この小説、実は三部構成になっていて、話が進むと、過去のことが書かれている。だから最終章がもっとも昔の話なのだ、そこで話が最近に戻ると言うことはないので、全部読み終えた後、また初めから少し読み返さないと、訳がわからない。
そしてレスビアン小説であるから、普通のヘテロな恋愛関係の登場人物は一組だけで(ソレもチョット危うい)後はレズカップルかホモカップルしか出てこない。お耽美的(と言われるのは読んだことないが)と言っていいモノかどうか〜なんか微妙なところをうまく綱渡っているような感じがする。ドラマ仕立ては相変わらず巧みで読ませてくれるのだが「この話は一体どの当たりがミステリなのか。いつになったら事件が起こるのだ」とミステリとばかり思いこんでいた自分は、どうも期待はずれであった。
やはり最高傑作は「半身」と言うことでどうでしょうか?
ま、レスビアン小説なんていうジャンルは無いわけだし(自分が知らないだけであるのかもしれないが)レスビアン的というギミックを実に巧みに取り入れて大成功した半身のような小説を望んでいたのだから、がっかりしても仕方のないことだ。たぶん、夜愁でウォーターズを初めて読んだのなら、ソレはソレは美しくもはかない物語。愛し合う二人を無惨に引き裂き、すでに過去へは戻れない恋人達(女同士か男同士だけど)の悲しい物語なんだろう。正直わるくはないんだけれど...前作ができすぎだったからねえ〜
- 作者: サラウォーターズ,Sarah Waters,中村有希
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