「算法少女」遠藤寛子

数字の真実の前ではすべての人は平等である。
久しぶりに素敵な本に出会えてしまった。コレは老若男女すべての人のお薦めできる、とても特別な存在の一冊である。
ぜひとも学校課題図書にすべし!!
日本には古来「和算」という数学があった。日本独特に進化したものと思われるが、驚くなかれ積分なども教えられていたらしい。そのころの一人の少女が主人公。
和算に精通し、ソレを神様に感謝するために、自ら作り出した問題を絵馬にしたため神社に奉納するという習慣があった。ソレを算額という。その習慣にのっとり一人の武家の子息が神社に奉納しようとした算額を見たとき、少女は気がついた。
「この答えは間違っている」
問題自体は直角三角形と円を接線に組み合わせた問題で、一見簡単そうだが、自分は全く手が出なかった〜難しい!しかしその答えが間違えであることは一目瞭然なのだ。なぜなら答えは「四対十二である」と算額に記されているが、それって1:3じゃないか?そう、その算額を奉納しようとした少年は間違えていたのだ。正しい答えは「四対十三」であった。しかしあいては武家の子息、間違いを指摘したのが身分も低い町の少女。武士のこけんにかかわる大事件になりそうな雰囲気だったが...意外にも武家の子息は自らの間違いを素直に認めるのであった。
数学の真実の前では身分制度は意味をなさない。
全編このコトを説き続けているように思えてならない。あの少女は危険分子っぽいから、チョット偵察に行ってくれと使命を受けた配下の武士も、少女を監視しているうちに、やがて自らも算学の虜となり、その後、算学の高名な先生となる。
藩主の娘に算学の指南役を決めるために、主人公にはライバルともいえる算学得意の武家の娘と競争させられるのだが、二人は算学を通じていつの間にか仲良しになってしまう。
これら、すべて数の神様が采配である。
とてもわかりやすい文章で、とても素敵なひとときを読書中に与えてくれた一冊。実はこの本は長らく絶版状態だったのだが、ネットでお馴染み「復刊ドットコム」への多数のリクエストからめでたく復刊されたらしい。
自分はこの本の存在など全く知らなかったが、書店で偶然見つけたこのタイトルに惹かれ購入した。こんな出会いがあるから読書はおもしろい。
ちなみにタイトルにもなった「算法少女」という江戸時代の和書は実在する書物。もちろん一般には流通していないが、どうも国立国会図書館で閲覧できるようだ。もちろん江戸時代の本であるから、これからも大切に保存していってもらいたい。

算法少女 (ちくま学芸文庫)

算法少女 (ちくま学芸文庫)