「牙王物語」戸川幸夫

日本のシートンと称される戸川幸夫の代表作。
だが、戸川幸夫どころかシートンすら知っている人は現代にいるのだろうか?もうすっかり過去の人?
過去の人でもおもしろいモノはおもしろい!!多分気の利く古本屋ならそれなりの値段で売っているだろうし、図書館なら多分書庫に蔵書があるはずだ。だって名作だ。
過去にこの人の「喰人鉄道」を読んだが、これが思いのほか感動的だったので、ほかにも何か出てないかと気にしていたところ、出張先のブックオフ的な古本屋で105円でゲット。そういえば最近は定価で本を買っていないなあ...
物語は簡単に言えば元祖『銀牙 -流れ星 銀-』だ(ウイードでもいいのか?コレは未読なのでわからん)見せ物小屋で日々猛獣との戦いを繰り広げていたヨーロッパ狼のレッドデビル(♀)が大雪山の麓で興業中に逃亡。その後、彼女が大雪山系で暮らしている時、猟犬テツ(♂)と知り合い、五匹の子犬が誕生する。その中で一番強靭だったのがこの物語の主人公キバである。ある時瀕死の重傷を負ったキバは牧場主の娘、早苗に助けられ、やがてその才能を見いだされ猟犬への仕込まれてゆく。そのころ「片目のゴン」という殺人羆(ひぐま)が猛威をふるっており、コレを倒すためには猟師の片腕となる屈強な猟犬が必要なのだ。
ところがそんな人間の事情などお構いなし。やはり生まれ育った大雪山の自然の中へ、野生へ回帰していくキバ。しかしこれからがキバの数奇な運命がはじまったのだった。
とにかく物語が二転三転して、読者の想像を軽く裏切ってしまう。猟師の元で猟犬修行に励み、一人前になったら憎き人食い片目羆ゴンを退治に行き、見事本懐を遂げめでたしめでたし〜などという話ではないのだ。戸川幸夫の小説を読むと、喰人鉄道の時も思ったけど、人間だろうと動物だろうと、尊敬の念を忘れ、物事を甘く考えてしまう者には自然の厳しい蹄鉄が下る。自然の中には動物も人間も含まれ、やはりソコには厳しい弱肉強食の掟がある。人間だから畜生よりも上等だ...などと考えているオロカモノは、まず一番最初にぶち殺される。
とにかく絶対オススメなのだが、現在の日本で戸川幸夫の再評価が高まる兆しはない。

牙王物語 (講談社文庫 と 6-1)

牙王物語 (講談社文庫 と 6-1)

画像はないがAmazonには記載があった。なんか絶版のようだ。中古品が買えるが、ちょっと高いなあ。