「6ステイン」福井晴敏

お正月もすでに10日をとっくに過ぎているというというのに未だ読書三昧の自分。さて今回は直木賞の候補にも挙がっている「6ステイン」である。相変わらずおもしろいのだが「え、これが直木賞候補?」と思ってしまった。これが直木賞候補なら二年前の「終戦のローレライ」に直木賞あげろよと!!「終戦の..」は確か二つぐらい賞をもらっていたから、そういう作品には直木賞はあげないのか。そういえば京極夏彦直木賞もらったときも「それならもっと早くあげろよ」と憤慨したものだったけれども...福井晴敏はどうなる?
組織の一員といえば聞こえはいいが、要は使い捨ての歯車の一つでしかない秘密諜報部員(←古い言い回しだ)たちが、ふとしたきっかけから自分の人間としてのアイデンティテイを回復する話が、続けて六つ。特に最後の二作品は短いながらも物語が二転三転して、お馴染み福井晴敏節をたっぷり堪能できる。
最後の一編だが、昔読んだ赤毛のアンシリーズの「アンをめぐるひとびと」を思い出してしまった。特にアンが出てこなくても成立するストーリーにふと登場するアン・シャーリー。読者サービスといえばそれまでだが、作者のモンゴメリはあまりに巨大になりすぎてしまったアン・シャーリー物語から離れた新しいものを創造したかったらしいのだが、出版者側の意向もあり、仕方なく、全く関係のない話にアンを登場させて「アンシリーズ」の一冊として販売した。確か後書きにそんなことが書いてあった(うろおぼえ)その辺のバランス感覚が微妙なところだが福井晴敏。この最後の話にも、アノお馴染みの彼が登場する。別に登場しなくても十分おもしろい話なのだけれど...コレを「読者サービス」と思えるかどうか。それは個々の判断に任されるであろう。
今回の直木賞候補、コレは次回(あるいはそれ以降)に直木賞をあげますよという、主催者側のシグナルだと受け取っていいのであろう。「OPローズダスト」の発売がいやが上にも待たれるところである。

6ステイン

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