「黒豹スペース・コンバット」門田泰明

今更トンデモっていったってねえ...
1000ページを超える大長編、ようやく読了しました。本書はかつてトンデモ本で大絶賛された本である。トンデモ本を知っている人なら「ああ、なるほど」と納得して頂けるが(自分も今までそうだったが)実際に手にとって読んだことある人が何人いるであろうか?しかしカバーの帯には「黒豹シリーズ累計230万部」と記してあるのだ。黒豹全集が全31巻あるとして(黒豹奪還上下はのぞく)一冊あたり約7万4000冊...小説の発行部数にしたらすごい数だ。これだけ読者に支えられているシリーズがどんなものか、またなぜトンデモ本で絶賛されたのか?気にならないわけはない。早速読むのが書痴の正しい対処なのだろうが、あいにくいつもの市立図書館に蔵書がない。書店には当然新刊がおいてあるのだが...ブックオフ百円落ちするのをひたすら待ち、本日の読了に至る。
ネットで黒豹のことをいろいろ調べてみたが、自分の調べた範囲では不思議なことに黒豹を絶賛しているサイトは皆無...いや本当は一つだけ見つけたのだが、そこには書評がなかった。想像したとおり、ケションケションにネタにされているサイトだらけであった。...特にこの「スペース・コンバット」は大受けである。
曰く「拳銃でICBMを打ち落とす」曰く「拳銃で未確認飛行物体を撃ち落とす」曰く「宇宙空間を流星が燃えながら飛んでゆく」曰く「沙霧(黒豹の秘書兼愛人)の乳房が揺れた」本当にそのように描写されているのだから言われても仕方がないが...
ソビエト原発が謎の事故でチャイナシンドローム状態を起こし、地球がまっぷたつになろうとしている危機を、謎の組織によって月に拉致されている天才科学書を救出することによって阻止しようと黒豹は立ち上がる。世界各国の火山は大噴火を始め、各地で大規模地震が頻発して地球の運命は風前の灯火である。この危機を救える者は日本の武装特捜検事、黒木豹介「黒豹」しかいない。
勇ましいストーリーなのだが、それほど未曾有の大災害が来ているというのに、悲しいことに全く緊迫感がない。「愛用のベレッタをホルスターから0.3秒で抜き、1秒間に5発の弾丸を撃ち出す」ドンドンドンドンドンッ...地球の危機はごく簡単な会話ですまされてしまい、黒豹の刺客が十ページに1回は待ち伏せして襲ってきて、4〜5秒後には全滅しているというすざまじき描写も、こう繰り返し、一言一句違えずにでてくると「愛用のベレッタをホルスター...」と文字が出ただけで笑ってしまう。そして先の「沙霧(黒豹の秘書兼愛人)の乳房が揺れた」正確には「セーターの中で乳房が...」と来るのだが(どうでもいい)コレも何度も出てきて、非常に笑える。つまり極端にボキャブラリーが少ないのだ、門田先生。
しかし、そのような些細なことは自分は気にしない。なしてエドガー・ライス・バローズを座右の書としている自分にとって、荒唐無稽の小説など、その荒唐無稽さが際だっていればいるほどOKという、荒唐無稽の猛者なのだ!!...と、威勢よく書いては見たけれど、ヤッパなんかさ、読んでいてさ、つらいんだよね。
これだけシリーズを続けられるということは、シリーズ初期にはそれなりにおもしろかったのじゃないかと?いきなり「スペースコンバット」を無名な作家志望が持ち込んできたら「おとといきやがれ」になるかもしれないが、成功したシリーズの新作ともなれば「先生、新作待ちわびていました」と諸手を挙げて歓迎する編集者もいるであろう。また実績があるのだから、即発行となるだろう。
なにがいいたいかというと...取り巻きにおだてられて、全く批評するシステムが編集者に働かなくなり、作者の妄想ぶりだけが異様に暴走してしまったのではないかと?「先生、この作品まずいんじゃないっすか?」と注進してくれるスタッフが周りに一人もいないのじゃないかと....友達がいないんじゃないかと?なんかさ、文章の行間からそんな門田先生の孤独が見えてくるんだよね。
「これはSF小説ではない。現実に起こっていることだ」作中何度もでてきた言葉だ。未確認飛行物体はがんがんでてくるわ、それに乗っていると思われる宇宙人と交信してしまうわ、アポロ以降も月にはガンガン有人飛行を繰り返しているが、米ソともそれは隠しているわ(「アポロは月に行かなかったスペシャル」の逆だな)月には昔宇宙人が作った謎の施設があり、ソコでは未知の強力な核物質が存在するわ、それをナチ残党のテロ組織が核兵器にするわ...キリがないSFっぽい描写。それでも門田先生はかたくなに「SF小説ではない」と言い張る。いいじゃないかSFだって。
全三巻ある中でも特に月へ宇宙船を駆使して天才科学者を救出にいき、宇宙空間で壮絶なバトルを繰り広げる中巻が自分は一番好きだよ。上巻と下巻は、ただただ門田先生の美意識だけが炸裂しているだけなので、正直読んでいて、かなり辛い。門田先生の想う「理想の男性像(ま、黒豹だよな)「理想の女性像(ま、沙霧だよな)」「理想の総理大臣像」「理想の日本国家像」「理想の自衛隊像(てか日本軍だよな)」等々が延々続くのだ。つらくて、痛い。
下巻に解説がある。宗肖之介(そうしょうのすけ)文芸評論家とあるが、こんな評論家を自分は知らん。どうひいき目に見ても編集者の変名にしか思えない。その砂を?むような解説文を読むにつけ、作家と共に作品を作り上げていこうという編集者の仕事というものをすでに放棄してしまっているとしか思えてならない。
てか、門田先生の作品...自分はもういいです。

黒豹スペース・コンバット〈下〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)

黒豹スペース・コンバット〈下〉―特命武装検事黒木豹介 (徳間文庫)