「スペースマシン」クリストファー・プリースト

最近では「プレステージ」というタイトルで原作映画が公開されているプリーストだが、事情をよく知らなかったので「プレステージのあらすじって、プリーストの『奇術師』に似てないか?」とマヌケなことを思っていたのは自分である。
無知とは恐ろしい。
ソレはともかくあの奇術師を映画化なんて何と大胆な!忠実に映画化シタラ、間違いなく非難囂々でコケルこと間違いなし。案の定コケちゃったようだが、あの世界観は小説だからかろうじて成立していたのだと自分は思うよ。
さて本作「スペースマシン」だが、そんなプリーストのデビュー作(多分)日本で最初に紹介された長編のはずだ。その後の作品は不運にもサンリオSF文庫として発売されたため、余りにヒドイ誤訳で散々なセールスだったに違いない。そんなサンリオSF文庫も今では立派なコレクターアイテムになっているのだから世の中わからない。
時代は100年以上昔。時間を自由に行き来できるマシンを作り出した天才科学者。その美人助手に一目惚れの主人公はフトしたことからこの美女と一緒にマシンの試乗を博士に内緒にしてしまうことになってしまった。ところがこのマシンは時間を自由に旅できるだけではなくて、空間をも自由に航行できるのだ。二人が航行中にフトしたことからマシンが暴走、そしてたどり着いた場所は、何と火星!
はるか地球を離れた彼の地は、創造を絶する世界であった。
と、まるでバローズの「火星シリーズ」を思わせるような出だしであったが、この物語の火星はバローズ火星のような血湧き肉躍るような世界ではない。むしろウルトラセブンの一エピソード「第四惑星の悪夢」の世界だ。ソコでは人間は火星人(お馴染みたこにゅうどうのような生き物)の食料としてだけ生存がゆるされていた。しかも火星人は地球をも侵略してしまおうと計画中ではないか。とはいえ空間移動できるスペースマシンは主人公達を火星においたまま、自動帰還装置により地球に戻ってしまった。
さあ、これからどうするんだ?
と言うことでネタバレになる前にやめておく。読み進めていくと、元祖SF作家のH・G・ウエルズまでもが登場してきて、ぶにょぶにょたこにゅうどう火星人と一戦を交え始める。この体験が後に「宇宙戦争」として花開いたのであった。
というか「奇術師」でもあったが、実在の人物、ソレもちょっと時代がかった偉人(奇術師ではニコラ・テスラだったけど)を登場させるというスタイルはかなり以前からのプリーストの技だったのだなと。
全編暗く重苦しい雰囲気のさくひんあので、決して万人向きとは言えない。とりあえず映画「プレイステージ」を見て憤慨した人は読まない方が良いと思う。
英国のパブリックイメージというかな、ソコはハリウッド的ではない英国科学小説ってのはこんな観じだというお手本だと思って良いのではないかな?
とはいえ東京創元社版は多分廃盤だと思うので、ここは図書館の司書さんに探してもらおう。自分とこの地元の図書館では書庫にもなかった。結局横浜の古本屋で購入したのであった。
この様にプリースト道を究めるのは、困難である(とかいいながら、まだ二冊しか読んでいない)

スペース・マシン (創元SF文庫)

スペース・マシン (創元SF文庫)