「蜘蛛の糸は必ず切れる」諸星大二郎

恥ずかしながらこんな本があるとは知らなかった。作者はもちろん「暗黒神話」などで超有名な諸星大二郎、漫画家である。ところが本書は小説である。まさか小説を書いていたなんて知らなかった。ひょっとしたらこれが第一作なのかもしれないが。
短編集で四作入っている。表題作のほか「船を待つ」「いないはずの彼女」「同窓会の夜」
「舟を待つ」...コレは不条理小説と言えばいいのだろうか。来るか来ないかわからない船を波止場らしき宿泊所で延々待ち続ける人たち。そして本当にその船は来るのか?その船に乗れば希望があるのか?といった彼らの不安、いらだち、が延々続く。諸星大二郎をよく知る人なら「らしくないなあ」と思われるだろう。
「いないはずの彼女」「同窓会の夜」コレはどちらも似ているコンセプトのお話し。現代の都市伝説というかオカルト話。
やはりここは表題作の「蜘蛛の糸は必ず切れる」がいかにも諸星らしくて圧巻である。主人公はご存じ芥川龍之介の短編「蜘蛛の糸」登場する「かんだた」(漢字がむずかしいので...)だ。そしてそのお話しで蜘蛛の糸がぷっつり切れてからの後日談である。後日談ではなくて、直後からのお話しだった。
助けの蜘蛛の糸が切れて、当然元の血の池地獄に落っこちたと思われた「かんだた」であったが、どっこい彼はしぶとかった。落ちると見せかけて、岩肌にしがみつき、そこからまた蜘蛛の糸をよじ登ろうとしていた。しかししれた先の蜘蛛の糸は張るか上空。とりあえず岩を昇りそのまま地獄巡りをしながら、また句のも意図にしがみつき天空を目指そうとするのだ。
かんだた、しぶとい。
てっきり落ちているはずのかんだたが血の池地獄で見つからなかったものだからさあ大変、閻魔大王をはじめ地獄の兵卒たちは必死になり行方を捜すが見つからない。だいたいあんな蜘蛛の糸なんか天井からつり下げるから行けないんだと、天国に逆切れ。天国の方もそりゃ悪かったと、もしかんだたが見つからず、蜘蛛の糸を昇り無事天国までたどり着いてしまったら、代わりに天国にいる1万人ほどを地獄送りにすると...これまたご無体なご提案。
ま、タイトルからしてネタバレなので、どうと言うことはないが、その間の地獄のあわてふためきぶりと、あくまで冷静沈着に天上界を目指すかんだたの対比がいい。これが一番諸星らしい作品なのだなあと思ったが...あ、だから表題作なのね。

蜘蛛の糸は必ず切れる

蜘蛛の糸は必ず切れる